大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)761号 判決

所論は先ず被告人と被害者棚橋里枝とは内縁関係にある夫婦であり、刑法第二四四条第一項及び第二五五条の配偶者には内縁の妻を包含するものと解すべきであるから、本件窃盗及び横領につきそれぞれ右法案を適用して被告人に対し刑を免除すべきものであると主張する。しかし刑法にいわゆる配偶者は民法におけるそれと観念を同じくするものであつて、未だ婚姻の届出をなさざる者はたとえ同棲していわゆる内縁関係を結んでいても刑法上の配偶者ではないと解するを相当とする。しかして配偶者中に届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を包含せしめる必要ある場合には、特に法文中にその旨が明示せられているのであつて(例えば厚生年金保険法第二六条第一項優生保護法第三条第一項等参照)かかる明文の存しない限り濫りに拡張解釈をなすことは許されないのである。又刑法は昭和二二年法律第一二四号を以つてその一部の規定が改正せられ、同年法律第七四号(日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律)による民法の規定の変更に即応して刑法の規定も修正せられたのであるが、その際配偶者の意義を変更するが如き改正が行われていない点から観ても、所論に賛同することはできない。なお刑法第二四四条第一項前段は「刑を免除する」旨規定し「罰せず」とは規定していないのであつて、その後段の「告訴を待つてその罪を論ずる」旨の規定及び同条第二項の親族でない共犯の場合の規定と相俟つていわゆる親族相盗の場合にも犯罪が成立しないとなすのではなく、直系血族、配偶者及び同居の親族間では犯罪は成立するが処罰しないという意味に解すべきであるから、本件において棚橋里枝が所持していた衣料品中に他人所有にかゝるものがあつても、前段説明の如く右棚橋里枝が被告人の配偶者にあらざる限り右物件に対しても被告人は窃盗罪の責を辞することはできないものといわなければならない。

次に所論は原審において刑の免除を主張したのに対し原判決がこれに対する判断を与えなかつたのは違法であると主張する。

よつて記録を調査するになる程原審第一回公判調書によると弁護人から被害者棚橋里枝は法律上配偶者ではないが、配偶者に準ずるものとして刑法第二四四条に則り被告人に対し刑を免除すべきものであるとの主張があつたことが明らかであり、この主張に対しては、刑事訴訟法第三三五条第二項に則りその当否の判断を示さなければならないのであるから、特に判文中にその判断を示さなかつた原判決には、一応刑事訴訟法第三七九条の訴訟手続の法令違反があるというべきである。しかしながら同条及び同法第三九七条を適用して原判決を破棄するには右判断の遺脱が明らかに判決に影響を及ぼすことを要するのであるが、前段説示の如く棚橋里枝は被告人の配偶者でないことが明らかであるから、刑法第二四四条第一項前段を適用して被告人に対し刑の免除を言渡すべきものではなく、従つて判決に影響を及ぼさないことが明らかであつて、この点において弁護人の主張は採用に値しない。

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